くず (葛) 

学名  Pueraria lobata subsp. lobata (P.montana var.lobata)
日本名  クズ 
科名(日本名)  マメ科
  日本語別名  クズカズラ、マクズ、ウラミグサ(裏見草)
漢名  葛(カツ,gé) 
科名(漢名)  豆(マメ,dòu)科
  漢語別名  野葛(ヤカツ,yege)、粉葛(フンカツ,fenge,fankot)・粉顆、葛藤(カツトウ,geteng)・田葛藤、葛條、甘葛、干葛、刈頭茹、黄斤、鹿藿
英名  Kudzu, Kudzu-vine

2006/08/28 清瀬市 2006/04/24 三芳町竹間沢
2008/07/10 入間市宮寺

2004/09/06 新座市中野

2005/09/12   三芳町竹間沢
2005/10/01 同上 
2009/08/13 入間市宮寺
風に翻る葉裏  2006/05/02 三芳町竹間沢

 クズ属 Pueraria(葛 gé 屬)には、主としてアジア熱帯~温帯に約20種がある。

  P. alopecuroides(密花葛)
雲南・タイ・ミャンマー産 
  P. calycina(黃毛萼葛)
 雲南産 
  P. edulis(食用葛藤・葛藤)
 四川・雲南産 
  P. lobata
    クズ subsp. lobata(P.montana var.lobata;野葛・葛藤・葛)
    シナクズ subsp. thomsonii(P.thomsonii, P.montana var.chinensis;甘葛藤・粉葛)
         琉球・臺灣・漢土・フィリピン・インドシナ・ミャンマー・インド・ヒマラヤに分布。
         
『中国本草図録』Ⅵ/2688、『中草薬現代研究』Ⅰp.259 
  タイワンクズ P. montana(P.lobata var.montana;越南葛藤・葛麻姆・山葛藤・山葛)
         
 奄美・琉球・臺灣・漢土・インドシナ・インドネシアに分布。『中国本草図録』Ⅳ/1701 
   
   
 マメ科 Leguminosae(Fabaceae;豆 dòu 科・荳科)については、マメ科を見よ。
 「和名くずハくずかづらノ略ト謂フ、又くずハ大和ノ國栖(くず)ニ起因シ往昔國栖人ノ葛粉ヲ製シテ賣リ來リシ故自然ニくずト云フ樣ニ成リシト謂ハル」(『牧野日本植物図鑑』)。  
 深江輔仁『本草和名』(ca.918)に、葛根は「和名久須乃祢」と、鹿藿は「和名久須加都乃波衣」と。
 源順『倭名類聚抄』(ca.934)葛に、実は「和名久須加豆良乃美」、根は「和名久須加豆良乃禰」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』14(1806)葛に、「クズ マクズ
古歌 クゾ南部 カヅネ筑前 イノコノカネ備後」と。
 北海道・本州・四国・九州・奄美・朝鮮・臺灣・漢土・フィリピン・インドネシア・ニューギニアに分布。
 広く世界の温帯に移植されて野生化しており、日本では沖縄に帰化している。1930年代に米国に導入されたものは、手に負えない雑草となっている。
 地下に、大きなものは30kgに達する根塊を持ち、ここに澱粉を蓄える。
 中国では、綿花を栽培する(宋代以降)ようになる前は、葛布(カツフ,gebu)は夏服の素材であり、クズは重要な繊維植物であった。例えば、『越絶書』に「(越王)句践種葛、使越女織治葛布、献于(呉王)夫差」と。また、葛の繊維で作った靴は葛屨(カツク,geju)と呼ばれた。
 巨大な葛根(カッコン,gegen)やそれから採った澱粉は 薬用・食用とし、嫩葉は蔬菜とし、茎葉は牛馬の飼料とし、葛花(葛條花)は薬用にした。
『中薬志』Ⅰpp.495-497・Ⅲpp/388-389、『中草薬現代研究』Ⅰp.258、日本薬局方
 変ったところでは、茎を搾った葛汁や花を、酒酔いの予防としあるいは二日酔の薬とした。
 『詩経』国風・周南・葛覃(かつたん)に、「葛の覃(の)びて、中谷に施(うつ)る、維(これ)葉莫莫たり、是(ここ)に刈り是に(に)て、絺(ち)と為し綌(げき)と為し、之を服して斁(いと)ふ無し」と。
 邶風
(はいふう)・旄丘(ぼうきゅう)に、「旄丘の葛、何ぞ誕(おほ)いなる節ある」と。
 クズは、日本でも中国と同様に用いられた。とくに、葛粉(くずこ)は調理や菓子の材料とし、奈良県吉野に産するものが室町時代以来吉野葛として有名であるほか、和歌山県田辺・新潟県小千谷などが著名な産地。(ただし、今日葛粉としてて売られているものは、ほとんどはジャガイモの澱粉である)。
 このように有益な植物なので、古来半栽培状態に置かれたらしく、日本では、秋の七草の一として親しまれてきた。今日でも 人里近くに自生する。
 繁殖力がきわめて強いので、アメリカ・中国などで牧草として、また堤防の決壊防止・砂漠の緑化などの目的で植えられもしているが、時として手に負えない雑草と化している。

葛粉
(長瀞町遍照寺)
 日本では、生薬カッコンは クズの周皮を除いた根である(第十八改正日本薬局方)。 
 「クズの根から澱粉をとってクズコを作るのは、うっかりすると日本だけのように考えがちだが、じつはたいへんな誤りである。最近になって、だんだんわかってきたが、クズは南太平洋のメラネシアの島々に案外ふつうに見いだされる。この島々ではクズは人家附近の叢林や、森林の中で以前人間が拓いて、いまは見捨てられた草地などに大群落をつくっている。その生態を簡単にいえば、レリクト・クロップの状態となっている。その附近の原住民は、クズ根の利用は知っていても、救荒植物として、食物の乏しいときにしか利用しない。このメラネシアのクズは日本のクズと同種とみられているが、熱帯高温地では結実しない。これはクズががんらいは温帯植物であって、熱帯では高温障害をおこして結実しないためと考えられる。種子を結ばないクズがメラネシアの島々に伝播したのは、人間がわざわざ運んだためとしか考えられない。それはいまはあまり利用されないが、かつては重要な作物であった時代の存在を推定させる。
 メラネシアよりもうすこし北方、つまり台湾とフィリッピンとのあいだの海峡にある紅頭嶼に住むヤミ族は現在でもクズを栽培している。この島ではクズは野生状のものを採集するのと、わざわざ栽培するのと両方がある。この両者のあいだの品種的な差異はまだわかっていない。この島の主食はタローイモであるが、クズもサツマイモとならぶ重要食品である。クズがはっきり農作物である例をこの島で実証できるわけである。
 クズはさらにシナの南部から日本にわたって、同じように根から澱粉をとるのに使用されている。クズという植物は温帯植物だから、シナ、日本の場合は不思議でないが、それがメラネシアまで伝播したことは、温帯の原産地でクズ利用を含む文化複合が熱帯に伝播をおこすまえに成立していたことを示すものである。」(中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』)
 『万葉集』に詠われる歌は、文藝譜を見よ
 ここには いくつか例示する。まず、長く延(は)う蔓は、永遠の生命の象徴であった。

   ・・・延
(は)ふ葛の いや遠(とお)永く 萬世に 絶えじと思ひて・・・(3/426,山前王)
   はふくず
(葛)の た(絶)えずしの(偲)はむ おほきみ(大君)
     み
(見)しし野辺には し(標)めゆ(結)ふべしも (20/4509大伴家持)

 しかし、無秩序に延びる蔓は、前途不明、離別などを象徴した。

   大崎の あり磯
(荒磯)の渡(わたり) (は)ふくず(葛)の 往方も無くや 恋ひ渡りなむ
      
(12/3072,読人知らず)
   真田葛(まくず)
(は)ふ 夏野の繁く かく恋ひば 信(まこと)吾が命 常ならめやも
      
(10/1985,読人知らず)
   かみつけの
(上毛野) 久路保のね(嶺)ろの くずはがた
     かな
(愛)しけこ(児)らに いやざか(離)りく(来) (14/3412,読人知らず)

 クズは、日常生活の身近に在った。

   霍公鳥(ほととぎす) 鳴く音聞くや うの花の
     開き落
(ち)る岳(をか)に 田葛(くず)引くをとめ (10/1942,読人知らず)
   なし
(梨)(なつめ) きみ(黍)に粟(あは)嗣ぎ 延ふ田葛(くず)
     後もあはむと 葵
(あふひ)花咲く (16/2834,読人知らず)

 秋にさく花は、秋の七草の一に挙げられた。

   秋の野(ぬ)に 咲きたる花を 指(および)折り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花
   芽(はぎ)が花 を花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花
     をみなへし また藤袴(ふじばかま) 朝貌(あさがほ)の花
       
(8/1537;1538,山上憶良。秋の野の花を詠める)

 しかし『万葉集』には、クズの花を詠った歌はほかに無い。むしろ、風に靡く葉、晩秋に色づく葉が、詠われる。

   水茎の 岡の田葛葉
(くずは)を 吹きかへし 面知る児らが 見えぬ比(ころ)かも
      
(12/3068,読人知らず)
   真葛原 なびく秋風 吹くごとに 阿太
(あだ)の大野の 芽子(はぎ)の花散る
      
(10/2096,読人知らず)
   雁がねの 寒く鳴きしゆ 水茎の 岡の葛葉は 色づきにけり
(10/2208,読人知らず)
   我が屋戸の 田葛葉日
(け)にけに 色づきぬ 来まさぬ君は 何(なに)(こころ)そも
      
(10/2295,読人知らず)
 
 『古今集』には、

   ちはやぶる 神のいがきに はふくずも 秋にはあへず うつろひにけり
     
(紀貫之「神のやしろのあたりをまかりける時に、いがきのうちのもみぢをみてよめる」)
   あき風の 吹うらかへす くずのはの うらみても猶 うらめしき哉
(平貞文)

 『後撰集』に、

   あしひきの 山したしげく はふくずの 尋てこふる 我としらずや
     
(兼覧王「人をいひはじめむとして」)

 西行
(1118-1190)『山家集』に、

   やまざとは そとものまくず はをしげみ うらふきかへす 秋をまつ哉
   すがるふ(伏)す 木ぐれがしたの くずまきを 吹うらがへす 秋の初風
   たま
(玉)まきし かきねのまくず 霜がれて さびしく見ゆる ふゆの山ざと
   吹風に 露もたまらぬ くずのはの うらがへれとは 君をこそ思へ

 『新古今集』に、

   神なびの みむろの山の くずかづら うら吹きかへす 秋は来にけり
(大伴家持)
   人しれず くるしき物は 忍ぶ山 したはふくずの うらみなりけり
(藤原清輔)
   くずのはの うらみにかへる 夢のよを 忘れがたみの 野べの秋風
(藤原俊成女)
 

   葛の葉の面見せけり今朝の霜 
(芭蕉,1644-1694)
 


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